column

映画075 妖刀物語 花の吉原百人斬り

『妖刀物語 花の吉原百人斬り』 1960年 内田吐夢

新文芸坐の内田吐夢特集上映でずっと未見だった『妖刀物語 花の吉原百人斬り』を見た。とにかく最後の桜吹雪の中での大立ち回りが美しいという話だったのだが、全体を通して総じて美しい映画だった。
この『妖刀物語 花の吉原百人斬り』は歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」に題材を取り、しかし歌舞伎からは大きく役柄を変えた遊女・八ツ橋(水谷良重)と年齢を30歳の設定と各段に若くなった佐野の次郎左衛門(片岡千恵蔵)が映画に映像である理由を与え、物語の大胆な変更もただの痴話話のもつれからの殺人事件に留まらない男女の業の深さを見事に説明していた。

まず、概略ではあるが「籠釣瓶花街酔醒」では、田舎に住むお金持ちで、醜い顔に生まれついた次郎左衛門が見物のつもりで立ち寄った吉原で出会う花魁・八ツ橋に一目惚れしてから通いづめで身受けの話までどうにかこぎつけた矢先八ツ橋の養父の差し金によって、満座の中、次郎左衛門は八ツ橋に袖にされ、それを恨みに、一度抜けば必ず血を見ると言われる妖刀・籠釣瓶で八ツ橋を切り殺す。
これに対して、僕が大好きでいつも聞いている寿々木米若の浪曲「吉原百人斬り」では、大筋は同じであるが殺しの場面に相違がある。満座で恥をかいた次郎左衛門は一度田舎に帰り日を改めて妖刀と共にやってくるのに対して、浪曲では、八ツ橋と次郎左衛門の座に、八ツ橋の許婚が現れて、その場でどちらの男を取るか、という争いになり、さらには八ツ橋の父の敵が次郎左衛門の父であることが発覚したりしながら、幼刀の存在は一切なく、逆上によってその場で八ツ橋と許婚を殺す。
この両者に共通しているのは、次郎左衛門の性格は田舎者の世間知らずではあるものの押し並べて良く温厚である。しかしそれが一たび花魁を見染めて以来気も狂ったようにお金をつぎ込み、そして振られたことの怒りによって花魁を切り殺すところにある。

もちろん歌舞伎や浪曲の素晴らしさもあるが、特に歌舞伎に関しては若干の野暮ったさがあってどこか物語に力がないように思える。さらに田舎者が花魁の色香に迷った末の人殺しとは、実際の事件を元に描かれているとは言え、何と無く男性側の悲劇であり、花魁に人間的な魅力というのが少し見えずらい。
『妖刀物語 花の吉原百人斬り』での内田吐夢監督の変更点で特に大きいのはその花魁の描き方の凄まじさで、ともすればこの物語は八ツ橋の悲劇であるかもしれないと思うほどである。まず八ツ橋はそもそも太夫ではなく、岡場所で非合法で売春を繰り返していた女という設定である。それが御用となり吉原での一生奉公を命じられることになる。周りは幼いころから教育を受けてきた花魁たちである。その中に一人、何のルールも知らない粗野な女つるは、花魁たちが顔にあざのある次郎左衛門を嫌がり、急場しのぎで花魁にしたてあげられて、玉鶴という名で座敷にでる。皆に怖がられて育ってきた次郎左衛門は、物怖じしない玉鶴に優しさを見出して贔屓客となり、吉原の掟も分からぬままに私財を投じて玉鶴を最高位の太夫に仕立てようとする。
しかし次郎左衛門の国では自然災害も手伝って仕事が傾き金の工面にも苦労し始めると、すべての雲行きが怪しくなりはじめて、遂には資金繰りも滞り、折角太夫にまで仕立てた八ツ橋(元・玉鶴)に愛想を尽かされて、桜の頃、八ツ橋の花魁道中に妖刀村雨「籠釣瓶」を持って斬りかかる。
しかしそこで恨みを持つ相手は郭の主人や郭で生業を持つ人々と八ツ橋である。桜吹雪の中の壮絶で美しい立ち回りの中、次郎左衛門は「吉原の悪人出て来い」と叫ぶ。彼は、善人でありながら金をむしり取られて愛想を尽かされたすべての原因を吉原という場所に求めている。
そこには、恋にほだされた男の哀しさがある。
その悲痛な気持ちとの中、八ツ橋も閉ざされた吉原大門によりかかるように斬られ、豪奢な衣装に身を包んだまま倒れてゆく。

この八ツ橋、岡場所出身であり他の花魁たちに馬鹿にされ無碍にされながら、したたかに、いつか見返して松の位の太夫になる、という野望を抱いている。どこか、人生の底から這い上がって、形振り構わずに成功を求めるその強さ、そして、そのうちに秘めた自分の人生の哀しさが入り混じって、歌舞伎で描かれる八ツ橋よりも壮絶で美しい。しかも水谷良重が決して美人では無く、強気で虎視眈眈と目を光らせる様子、そこに見える女の強さというのが感動的で、それが花の吉原での立ち回りになれば、やっと太夫になったというのに悲運の最後を遂げてゆく。

二人の二用の悲劇が淡々と描かれてクライマックスに昇りつめてゆく様子が素晴らしいし、何といっても二人の心象風景の描写が美しい。決して二人ともが悪人では無い。善人であるが故に結局は恋が終わり被害者と加害者に分かれてしまう。
こういう時代劇があるというのはとても幸せなことだと思う。

上映後には、水谷八重子(元・良重)さんのトークショーもあって、いろいろと撮影の裏話を話してくださって、それも何だか楽しかった。
映画 日本
<< 映画074 台風クラブ : main : 映画076 駅 STATION >>